お奨め野球漫画その1~ラストイニング~

今日は野球漫画の話を。

今連載中の野球漫画の中では一オシかな。高校野球が舞台ですが、監督が主人公。

 

ラストイニング~私立彩珠学院高校野球部の逆襲~

(原作/神尾龍 作画/中原裕 ビッグコミックスピリッツ連載中)

【あらすじ】

夏-----高校野球選手権・埼玉県大会もたけなわの7月。

持ち前の話術と洞察力を武器に、サギ師紛いのセールスで常に売上げトップを誇り、ゴキゲン♪な毎日を送っていた元高校球児・鳩ヶ谷圭輔。しかしインチキ商法の全責任を社長になすりつけられて逮捕され、あえなく豚箱送りに。現役時代の監督で、今や母校・彩珠学院(通称サイガク(笑))の校長となっている狭山に保釈金を払ってもらってようやく釈放される。

しかし狭山は保釈金と引き換えに、ある条件を持ち出す。

経営合理化の煽りを食らって廃部寸前の野球部を、たった1年で甲子園に導け、というのだ。13年前の夏の県大会で、恣意的な判定を巡って審判を殴るという大事件を引き起こして以来、高校球界に背を向けていた鳩ヶ谷は勿論拒絶するが、背に腹は代えられない。保釈金返済のため、イヤイヤ母校の監督となった鳩ヶ谷。しかし昔は甲子園初出場初優勝を成し遂げた栄光の野球部も今はどん底。夏の大会も初戦で良いところなくコールド負け。部員たちも勝とうとする意志もなくバラバラ、外野を見回してもOB達は不甲斐ない戦績に不満を述べ立てるだけ、母親連中は我が子可愛さにわめきさえずり、銀行からヘッドハンティングされてきた辣腕美人コンサルタントは何の恨みか、野球部を目の敵にしているし、鳩ヶ谷に殴られた審判で今は県高野連の顧問におさまっている鶴ヶ島もサイガク&鳩ヶ谷を徹底マーク……と難問山積。

鳩ヶ谷は一見ナンジャコリャ!?だが実は合理性に裏打ちされた指導法で駒不足のチームを強化し、選手の意識改革も進めていくが、関東大会優勝の強豪・聖母学苑が立ち塞がる。しかも、ここのやり手監督・桐生氏と美人コンサル美里さんとの間には、何やら深い因縁がある模様。更には鳩ヶ谷の過去に興味を持つ高校野球オタクのフリーライターや、スポーツ用品メーカー所属の挙動不審な眼鏡っ子敏腕営業ウーマンやらが入り乱れながら季節は巡り、春の県大会を迎える……

 

【みどころ】

なんといっても主人公・鳩ヶ谷の元キャッチャー&インチキセールスマン(それ以上の怪しい過去もあるらしい)の本領、人間心理を見事についた選手調教育成とグラウンド内外の様々な障害を乗り越えていく戦略・戦術の妙味、相手との駆け引き。

着任早々「さわやか・ひたむき・正々堂々」を禁句に指定。がむしゃらに努力すればいいというのではなく、あくまで勝つために何をすべきか、相手のいる試合で主導権を握るにはどうすればいいのか、を常に考える姿勢は、描かれている戦術が実戦で有効かどうかは別として、必要なことなのではないかと思う。

1点差ゲーム(まあこれは公式戦じゃないからいいか)、転校生は1年間公式戦に出場できないというルールを裏技でかいくぐったり、オフシーズンに練習試合やったりとルール違反スレスレ又は完全に違反しているやり口の連続にもかかわらず不快感がないのは、副題に「私立彩珠学院の逆襲」とあるように、サイガクや鳩ヶ谷が弱者(窮鼠)の側であることと、高校野球の精神という題目と現実とのギャップから目を背けることの空疎さを突いていること、そして何より登場人物たちの(特に斜に構えている鳩ヶ谷や美里さんの)野球が好き、勝ちたい、という隠し切れない想いがあるからだろう。

 

選手たちには鳩ヶ谷とタメを張れるだけの強烈な個性を持った者は(今のところ)いませんが、知りたがりキャッチャーの八潮や我がままエースの日高、素直で従順な頑張り屋の滑川など、現役球児らしい普通の少年の個性を感じさせるし(鳩ヶ谷はそれをサル型・ネコ型・イヌ型に三分類。見事選手指導に活かしてます…(^^;)女性陣が可愛いのも魅力。

ツンデレ系ストレートヘアの美人コンサル美里さん、OB会長・大宮の娘でヤンキー風美少女(でもマネージャーの仕事は文句いいいながらも着実にこなす)詩織ちゃん、打てば響くような明敏さで鳩ヶ谷に協力するショートヘアの眼鏡っ子営業ウーマン比企夏子、と地味な絵柄で色っぽさはないんだけど、何ともいえずカワイイ。

 

それと、これはオマケ的な面白さだけど登場人物と学校の名前。

もうお気づきかもしれませんが、登場人物の名前が出身県の地名から取られている。

サイガクOBは大宮とか浦和とかだし、現役部員は川口だの岩槻だの、サイガクを取り巻く人々も蕨に比企に、すべて埼玉の地名。

一方、ライバル聖母学園の県外出身者は「明石」「佐倉」「日向」「天草」などで、一目でわかるようになっている。こう書いちゃうと、所謂「野球留学」批判漫画みたいだけれどそういうテイストは薄くて、高校野球の現実を踏まえて選手、監督や周囲の人々がいかに努力し知恵を絞り、したたかに勝ち抜こうとうとしているか、その姿を8割方コミカルに描いてます。

そして、高校名。サイガクのモデルは浦和学院だし(といっても勿論名前モデル。チームカラーや戦力は全然違う)、聖母は聖望、鳩ヶ谷やエース日高とちょっとした因縁のある春日野大栄は春日部共栄。チョイ役で登場する埼玉栄冠高校とか横浜益荒男とかの名前も、リアル埼玉高校野球ファンにはニヤリとさせられるところ。